Jリーグと私 30年の物語

スタジアムに広がる応援の旗。幅１００ｍを超えるビッグフラッグも増えている。その製作の第一人者が、亡き友を思いながら完成させた巨大なフラッグをめぐるエピソード。 埼玉県蕨市に工房を構える影山洋さんは、これまで３００以上の応援フラッグを作ってきた。そのきっかけになったのは、３０年以上前のある選手との出会いだった。東京ヴェルディの前身である読売クラブに在籍していた奥田卓良選手。Ｊリーグの開幕を楽しみにしていた奥田選手は、親友だった影山さんに応援フラッグの製作を頼んだ。しかしその後、悲劇が襲う。今年、影山さんは親友を思いながら、史上最大のフラッグ製作に挑んだ。

ジェフユナイテッド市原・千葉のサポーターが、公園での出会いをきっかけに、外国人得点王と家族ぐるみの交流を深めた。その後の悲劇を超え、今も続く絆のストーリー。 ２０１３年、ジェフに加入し得点王に輝いたブラジル人ＦＷケンペス。そんな外国人助っ人とサポーターの城台さん親子が偶然にも近所の公園で出会った。その後、この公園はケンペスと子どもたちがサッカーを楽しむ交流の場になった。しかしケンペスは、ジェフ退団からまもなく、飛行機事故で帰らぬ人となる。スタジアムには今もケンペスへの感謝と慰霊を込めた旗がたなびいている。時を超えた外国人得点王とサポーターたちの絆。

中学のとき不登校になった一人の少女が、川崎フロンターレの応援をきっかけに、再び学校に通えるようになった。そこには、サッカーを通じてつながる家族のあたたかな絆が。 Ｊリーグ３０周年のエピソード募集に、一人の女性から投稿があった。中学で不登校になった、蒼葉さん。父親に連れて行かれたフロンターレの試合をきっかけに、一歩を踏み出すことができたという。この投稿を偶然目にしたのが、父の路夫さんだった。サイトにこう書き込んだ。「この投稿をしたのは、私の最愛の娘です。」。サッカーを通じて確かめ合った家族の愛。父と娘は、今も、ともにスタジアムに足を運び、声援を送る。

大宮アルディージャの試合では、年に一度、手話による応援が行われる。聴覚に障害がある人たちだけでなく、選手も含めた大勢が同じ身振りでつながる手話応援の感動秘話。 大宮の試合で繰り広げられる手話応援。耳の不自由な人たちが中心となり、１０００人以上が手話で選手たちを応援する。この手話応援の実行委員の１人が木村雅俊さんだ。小学校高学年で音が聞こえなくなった木村さんは、ろう学校の先生に勧められ、手話応援を始めた。障害のある人も、そうでない人も、全員が同じ動きで応援する一体感に心を打たれた。そして大宮の選手たちも、手話の応援にこたえる。手話応援が作るつながりの物語。

去年話題になった一枚の写真がある。川崎フロンターレの中村憲剛さんと手をつなぐ少年。その名は三笘薫。時はめぐり、１６歳差の二人が同じピッチで躍動するまでの物語。 去年、Ｊリーグ公式ＳＮＳで話題になった写真。川崎フロンターレの中村憲剛さんと入場行進で手をつなぐ少年は、１２歳のときの三笘薫選手だった。フロンターレの下部組織に所属していた三笘にとって、中村さんは憧れの存在だった。その思いを原動力に、三笘はドリブルを磨き、目標だったフロンターレに入団。現役最後の中村さんと同じピッチに立つ。そして今や、三笘が子供たちの目標に。Ｊリーグ３０年の世代を越えたドラマ。

昨年の天皇杯で優勝したヴァンフォーレ甲府。Ｊ２のクラブが成し遂げた快挙だった。最後のＰＫ戦で勝利を決めたのは最年長の山本英臣選手。地域と歩んだ２０年のドラマ。 ヴァンフォーレ甲府のＤＦ、山本英臣選手（４２）。クラブ在籍２０年になる最年長が、天皇杯のＰＫ戦で最後に勝利を決めた。そこに至る道のりは、平坦なものではなかった。２００３年にＪ１のクラブから甲府に移籍。当初は練習環境などＪ１とＪ２の格差に不満を隠せなかったという。だがやがて、Ｊ１への移籍を辞退するほど、地域への愛着を深めていく。そこには何があったのか。天皇杯の劇的勝利に秘められた物語をひもとく。

２０１１年に急性の心筋梗塞で亡くなった元日本代表ＤＦ松田直樹さん。姉の真紀さんをはじめとする人々は、松田さんの死をきっかけにＡＥＤ普及の取り組みを続けてきた。 横浜Ｆ・マリノスや日本代表で活躍したディフェンダー、松田直樹さん。２０１１年、松本山雅での練習中に急性の心筋梗塞となり、亡くなった。松田さんの姉で看護師の真紀さんは、弟の死をきっかけに、ＡＥＤを普及させる取り組みをはじめた。そしてＪリーグでも、スタジアムにＡＥＤの設置を義務付けるなど、さまざまな取り組みを続けている。松田さんの死を未来につなげようとする人たちの思いを伝える。

Ｊリーグ開幕から３０年間、ただ一人、現役を続ける三浦知良。キングカズとしてこだわり続けたことの一つが、小学生たちとの交流だ。夢をテーマに授業をするカズの思い。 現在ポルトガルのクラブに所属する三浦知良選手。１９９３年のＪリーグ開幕以来、唯一現役を続けている選手だ。その原動力の一つになっているのが、２０年ほど前から続けている小学校での特別授業。「夢で逢えたら」と題して、子供たちに夢を持つ大切さを伝え、一人一人に手書きのメッセージを贈る。そうした交流の中で、自らも現役を続ける力を得ていたという。Ｊリーグの歴史を体現する男、キングカズの知られざる姿を描く。

名古屋グランパスの選手たちを３０年に渡り撮り続けてきたアマチュア写真家の渡邉光子さん。練習場で「おばちゃん」と慕われる渡邉さんと、選手たちとの写真を通じた交流。 練習グラウンドで、選手から「おばちゃん」と声をかけられる渡邉光子さん。３０年間、名古屋グランパスの選手たちを撮り続けてきた。プロではなく、あくまでアマチュアだが、クラブの公式施設でもその写真が使われている。選手たちにも慕われ、時には家族のような関係を築いてきた。最も長く撮り続けてきたのが、元日本代表ＧＫの楢﨑正剛さん。それぞれが厳しいときに、お互いに励ましあってきた。写真を通した交流の物語。

１９９８年にマリノスに合併され消滅した横浜フリューゲルス。今は横浜Ｆ・マリノスのＦとして、記憶される。伝説的な天皇杯優勝の裏に隠された若手選手たちのドラマ。 Ｊリーグの歴史の中で最大の衝撃ともいえるのが、横浜フリューゲルス消滅だ。親会社の経営難がきっかけだったが、存続を求めるサポーターたちの署名活動など社会的事件となった。主力選手たちが移籍を決めていく中、行き場を失ったのが若手選手たち。残る試合は天皇杯のみという状況で、主力選手たちは、若手を起用しアピールの場にすることを上層部に進言した。そして迎えた天皇杯の決勝。チームの栄光と終焉に隠されたドラマ。